この間の壁外調査で、腕を負傷した。
軽い裂傷程度なら巨人の力ですぐに回復していたのだが、今回のは深手だ。完全に、ミスをしていた。傷も治りが悪い。

「――っ…」
調査兵団に入団してから割り当てられた自分の部屋で、エレンは痛む左腕を押さえる。まだ、利き手じゃないことが幸いだった。

民衆がエレンを恐れて始めてからはこの古城に囲われるようになり、今ではここが兼、作戦本部である。
なにかあればすぐに巨人の身体を拘束出来るよう地下室を、ひとりではやや広めの部屋を与えられた。
周りのほとんどが、幼なじみであるミカサやアルミンのようにいきなり信頼してくれる、という訳にはいかなかったからだ。
警戒か崇拝か、少なくともエレンの周りには奇異な目を向けてくる者が多かった。それもある男を一人除いて、だったが。

「傷の様子はどうだ、エレン」
鋭い眼光を向けながら勝手に部屋に入ってくる。少し驚いたがいつものことだ。上司に口答えはするまい、そう思うと、エレンは緩んだ顔を緊張させ、それから返事をした。
「リヴァイ兵長。少し…痛む程度です」
リヴァイはそうか、と素っ気なく返事をしたあと、何の遠慮もなくエレンのいるベッドの空いている方へと、腰を下ろした。
彼がこの団員内で自由奔放に振る舞えるのも、我が調査兵団、人類最強の兵士長殿であるからこそなのである。

エレンの監視・管理という名目で、リヴァイは大抵エレンの傍にいる。もしもの時の役割が、彼にしか果たせないからだ。
最初は緊張感に溢れていたこの光景も、いくつかの任務を一緒に戦ってきたおかげもあってか、今では2人きりだと少し違う雰囲気になっていた。
最近はリヴァイと良く目が合う。気がした。それがどう言った意味合いの視線なのかまではエレンにはわからなかったけど、それが嬉しかった。
強さだけじゃなく、判断力や、統率力、エレンはリヴァイの姿そのものに憧れていたから、近い距離にいれるだけでも充分気持ちが舞い上がるようだった。
どんな形であれ、憧れてる兵長が自分を気にかけてくれているだけで、エレンはそこに居心地の良さを感じる。

「おい、クソガキ」
「は…、はいぃっ!」
しかしまだ癖になった緊張感は抜けないようで、急に呼ばれると情けない声が出てしまう。ナチュラルに罵られてるのは日頃の厳しい訓練のおかげか気にならなくなった。
「…お前は少し、ひとりで気張りすぎだ」
リヴァイが溜め息を漏らす。
「はい、すみません…」
「だからこういう事になるんじゃねぇのか」
失敗を咎めるように、左腕の包帯を巻いた箇所をぎゅっと掴まれた。塞がりかけた傷口にリヴァイの短く揃えた爪が食い込んで、左腕に痺れが走る。鈍い痛みにビクリと身体が揺れ、う、とエレンが眉をひそめて低く呻いた。
「…もう少し、俺たちを頼れないのか」
リヴァイがエレンを見ずに、左腕を見つめながらそう呟く。掴んだ腕を緩ませてから、僅かに甘やかすような声で言った。

え?と勝手に口が開いた。表情からリヴァイの真意は読めなかったが、彼なりに心配してくれているのだろうか。
腕を掴む、彼の距離は近い。そういえば人類最強の兵長も、エレンより伸びなかった身長が悩みらしい。前にハンジさんが教えてくれたなと、こんな時にそんな事を考えた。
今までに彼をこんなに間近で見下ろした事は無かったので、目が合ってないのをいいことにじっと見つめてしまった。
そうしていたら、伏せたその睫毛が意外に長いことを知った。
いや、見惚れている場合では無かった。上司に心配をかけてしまったのなら、こちらもなにか返答をしなくては。

「た、頼ってますよ」
戸惑いながらもエレンが慌てて言う。ひとりで突っ走ってしまうのは後で反省するとして、リヴァイを含めた調査兵団の皆をエレンが頼れない、というのは今すぐにでも訂正したかった。
必死に思考を巡らせ次の言葉を探していると、リヴァイはその姿を選別をするように伏せた睫毛をゆっくりと上向かせる。
深いブルーの瞳がエレンを映した。

「それとも、俺じゃ不足か」
切れ長の眼が訴える。
「は…、はいぃっ…!?」
「俺に頼るのでは、力不足かと聞いている」
この人は何を言い出すんだ。不足など有りはしない。今回の作戦も、自分が足を引っ張ってしまった結果なのに。
その真っ直ぐな眼差しに捕らわれると、エレンの頬が徐々に熱くなっていくのがわかる。
ああもう、リヴァイの事になると途端にこうだ。身体と頭がまるで逆の反応をしてしまうのが煩わしい。
エレンはとりあえずさっきの言葉も含めてもう一度訂正しようとして、考えるより先に声を出した。そんな余裕の無くなった少年の心労など、人類最強にはきっと些細なことなのだろう。

「俺は他の誰よりも、兵長のことを頼りにしてます…!」
動揺しすぎたエレンは一気にまくし立てるようにして言葉を並べ立てた。だが、急に目が合ってしまった事への照れと、あまりにも彼が近くに居ることに対する緊張が混ざり、変に大きな声でそう言ったらしい。
「いや、あの…、班の皆さんの事もちゃんと信頼して…」
口をついて出た言葉はもう帰らず、頭の中で反芻してしまってから恥ずかしさが押し寄せる。“他の誰より”とか言ってしまったのが、よりいたたまれない。
一気に顔が熱くなった。リヴァイは何も言わない。
こんな反応じゃ、特別に想っているのがバレバレだったと気づいて全身から汗が噴き出す。こんなことでいちいち顔を赤くしてる事も、知られてしまった。恥ずかしい。

「お前、うるせぇな」
じっとエレンの様子を眺めていたリヴァイが表情を崩すことなくそう言った。見つめられる度に、上司と部下以上の感情がエレンから滲み出していく。
「ご、ごめんなさい…!」
自分でもそれが止められなくて、途中恥ずかしくて倒れそうになるのを、耳まで朱を刷いてぐっとこらえた。
一切揺らがずに見つめる瞳が、エレンの心をぐいぐいと鷲掴みにしていく。リヴァイに全てを暴かれていくみたいだ。その瞳に追い詰められているようで。動けない。
エレン、と目の前の口が動いた。
「は、はい、」
名前を呼ばれただけで胸の奥から気持ちが溢れそうになる。名前なんて、今まで何度も呼ばれていたのに。一度意識してしまうともうだめだ。

それから幾らも間を与えずに、ベッドに座っているリヴァイの身体が少し浮いた。同時にぎし、とベッドを鳴らしながらエレンの唇に近づく、それ。

「少し黙れ」
兵長、と言おうとした唇を、リヴァイが自らの唇を使って塞ぐ。
「んん…!」
突然の感触にエレンが一瞬顎を引いたが、驚く間もなく逃げ出した顎を掴まれて、すぐに口付ける角度を変えられた。リヴァイの伏せられた長い睫毛から目が離せない。
理解の出来ないうちに舌がねじ込まれ、口内でその熱と柔らかさを感じた。同時に、ふ、と苦しげな呼吸が、エレンの口の端から漏れ始める。
あまりの気持ち良さに身体が震えて、急な事態に頭が真っ白になって何も考えられなかった。なのに追いつかない思考を、ぬるりとした人肌の、濡れた感触が現実に引き戻す。
唯一理解できた口づけと言う事実は、エレンが15年生きてきて初めて感じた、熱と甘さだった。

「ふ、あ、へい…ちょ…っ」
「エレン、舌をだせ」
いつも命令されてる感覚で、殆ど条件反射で従ってしまった。
ん、と差し出したエレンの舌先を、リヴァイはなんの躊躇いもなく吸い上げる。
「――っっ!」
ちゅ、じゅる、と水音だけがダイレクトに鼓膜を刺激して、柔らかな感触に粘膜が侵されていく。じわじわとその感覚だけがエレンの身体を支配していった。
掬えなかった唾液がエレンの顎を伝い、鼻がぶつかって呼吸すらもままならない。そのうちにリヴァイが両腕をするりとエレンの後ろへ巻きつけた。
彼は自分より小柄なはずなのだが、それを全く感じさせることは無い。
2人座っていたベッドの上へ、あっという間にエレンの身体を組み敷いた。

「どう、して、んっ、っ」
リヴァイからの長い口づけは未だ止まず、それに答えるエレンの中では嬉しさと疑問がぐちゃぐちゃに入り混じっていく。これは一体どういうキスなのだろう。ただの気まぐれや同情だとしたら、次からどんな顔をして彼に会えばいいんだろうか。
エレンの目縁にじわりと雫が乗ってきた頃、小さくリップ音がして、熱い息と共にようやくリヴァイの唇が離れた。
「ふぁ…」
表情の伺えぬまま耳元まで唇が近づいてきて、エレンと名前を呼ばれる。なんだかいつもの厳しい声の中に、幾分かの甘さを含んでいる気がした。
「リヴァイ、兵、長…っ」
負けじと呼んで返すが、整わない呼吸が邪魔をして上手く言えない。名前を呼ばれる度に胸の苦しさが増していくのを感じて、集まった目縁の雫はエレンの頬を流れ落ちていく。
この訳の分からない息苦しさをかき消したい。エレンはすがりつくようにして、殆ど無意識のうちにリヴァイの白いシャツの袖を掴んだ。まっさらなシャツに指が皺を刻み込んでいく。

「そうだな…、役立たずは俺に掴まってただ泣いてりゃあいいんだ」
リヴァイが耳朶にキスを落としながら低く囁いて、それから、ニヤリと笑ったのが視界の端に見えた。


衝撃が走る。
「―――いっ、っ!」
キスで浮かされてぼんやりした意識が一気に覚醒した。赤く滲む左腕の箇所に、思いっきり親指を立てられたのだ。さっき掴まれたときよりも深く傷口に食い込んでいる。
「忘れたのか?躾には痛みが必要だと教えた筈だろう」
「う、ア、あ…っ!」
爪先でぐりぐりと傷口を抉られて、その度に、ものすごい激痛がエレンの左半身を駆け抜けた。シャツを掴んだ指先が白くなるほどに力が入って、エレンは痛みに奥歯を食いしばる。
包帯という薄い布があるだけまだ幸いだったのだろうか。傷口を塞ぎかけていた膜も、リヴァイによってむなしく抉り取られ、生暖かい血液が二の腕を滑り落ちた。
当然リヴァイの指も、真っ白なシーツもぽたぽたとエレンの血で赤く染まっていく。

「や、兵長、やめて下さい…っ」
涙に濡れたエレンの瞳がやめろと訴える。
そんなエレンをじっと観察した後に、リヴァイが突然左腕の緩んだ包帯をずらして、血にまみれているエレンのそこへ唇を寄せた。
「いた…っ、いたいです!兵長…!」
潔癖の彼がエレンの血液を舐め始めて、かと思えば、次はその傷口に食むようにして口付けた。
目の前の俺を傷付ける癖に、どうして唇はそんなに優しく触れるのだ。そうやって、手負いの獣を慰めようというのだろうか。

「俺の物に、お前如きが勝手に傷をつけていいという事はない」
リヴァイが一度唇の血液をシャツの袖で拭う。
清潔だった彼が、エレンには欲望に穢れていくように見えた。
俺の物、とはなんのことを言っているのだろう。痛みであまり頭が動かない。エレンはなんだかいけない事をしているような気分になって、ぐるぐると眩暈を覚えた。
「アア……ッ!!っ、う、」
痛い。舌の触れた場所が燃えるように熱くて、痛い。口調は強くエレンを攻め立てるのに、這わせる体温は丁寧だった。痛くてたまらないのに、ものすごく愛されてる気がしてぐらついた。ついに俺までおかしくなったかと、焦る。
知らぬうちに、自分は彼のものになっていたのだろうか。もうよくわからない。

「クソ不味いな」
ぴちゃ、と音がして顔を上げたリヴァイの唇に、血液が乗って赤くぬらぬらと艶めいている。傍目に見れば酷い扱いを受けているのに、それを目にしたエレンの心臓はものすごい速さで昂ぶった。理屈じゃない。本能が全身に興奮を伝えている。
エレンの知るリヴァイは、超が付くほどの神経質で、潔癖性で、綺麗好きなはずなのだ。
そんな彼が憎むべき巨人との混血でさえも、エレンの一部として全て受け入れようとしているのだろうか。

「どうしてこんな事…っ」
朧気になって行く意識の中で、一番聞きたい言葉を吐き出す。
「怪我している奴が悪い」
「今は兵長が怪我させてます」
そう言って反抗すれば、リヴァイが目を細めてこちらを見下ろした。理由が知りたい、ちゃんと伝えて欲しい。そう思うのは贅沢なのだろうか。

「てめぇ分かってねぇのか。俺が目を離しゃあ、すぐに血塗れで転がってやがる」
「それは…」
確かに今回も、リヴァイの居ないところで感情に任せて無茶なことをした。その結果がこの腕だった。意識を手放した俺を、誰が抱えたのかも聞いている。

「ゾンビみたいに生えるんだか、傷が残るんだか分からねぇからな」
「俺にもよくわから」
「心配するだろうが」
どくん、と心臓が大きく脈を打った。

「生きてるか、確認したくなるだろうが」
リヴァイが揺らぐ瞳を見せて、そう言い放つ。
目の前の人物から放たれる言葉、そのひとつひとつにエレンの心臓は高鳴るばかりで、腕の痛みすら忘れてしまいそうだった。
こんな近くにいてはもう隠し切れない、彼に聞こえてしまうだろう。

エレンが自分の鼓動に気を取られていると、返事を待ち切れ無かったリヴァイが、無言でその無防備な首筋に噛み付いた。文字通り歯を立てたのだ。
「――いっ…た!も、貴方は動物ですか…っ」
瞳を潤ませるエレンを何も言わずちらりと見てから、たった今赤く腫れたばかりの噛み痕にも舌を這わせる。どうやらエレンの気を引こうとしているらしい。
これが彼なりの不器用な愛情表現なのは分かっていた。エレンにはもう、充分過ぎるくらいに伝わっている。
最初からずっと、触れる指先も、這わせる舌も暖かくて優しかったから。
「痛いなら、いい」
先からの乱暴なやり取りだけで、胸が締め付けられる程の愛情を感じる。普段は仏頂面の上司の癖に、こんな時だけ子供っぽく、エレンの気を引こうとしている彼がたまらなく愛おしく思えた。

「あの…、もしかしなくとも俺、今すっげぇ愛されてるんですか」
エレンの口が勝手に動いていた。どこかまだ信じられなくて、確認できるものならしたかったからだ。
リヴァイが少し目を見開いてから、何も言わずに汗で張り付いたエレンの前髪を指先で梳かす。
そうしながら、悪かったな、文句あるのか、と言い、エレンが痛みで流した涙の痕に柔らかく口付けをした。
そうしたリヴァイの唇が、エレンの頬を赤色で汚していく。
「ひでぇ顔だな」
「兵長もですよ」
エレンが切なげに眉根を寄せて笑った。
きっともう自分の気持ちなんてとうに伝わってしまっているから、せめてもの照れ隠しに自分からリヴァイの右手を、返事の代わりに煩く響く心臓へと押し当てることにした。

「痛かったんですから、何倍も、優しくして下さいね」
「恥ずかしい程に若いな…、お前」
そして、頭が悪い。リヴァイはいつも通り、エレンを無表情で罵る。
手のひらには馬鹿みたいに煩いエレンの鼓動が響いていて、不慣れに見つめ合うその目縁がほんのりと赤く染まっていた。



「もう一度、キスから躾てくれませんか」
まるで意外な返事が返ってきたとでも言うように、リヴァイは瞳を見開いた。
「………それなりに、見返りは頂くが」
「はい、どうぞ」
エレンが困ったように眉を下げて、頬を赤くする。それが合図かのように、リヴァイは先程の血が残る唇のままエレンへ口づけた。
鉄の匂いがお互いの鼻に抜けていく。不愉快な筈なのに、さっきよりもずっと甘ったるい味がした。
「ん、ふ…」
ちゅ、ちゅ、と音を響かせて、柔らかい上唇や下唇もお互いにたっぷりと堪能していく。それから、舌先を擦り合わせるようにして、吸い合う。
いつの間にか鉄の味は溶けていって、甘い唾液だけが絡み合った。
「本当にクソ不味いですね、俺のキス」
つ、と光る唾液の糸を引いて、舌が離れる。
「…自覚できたなら、無許可で俺の物に傷をつけるのはタブーだと肝に銘じとけ」
でないと、またクソ不味いキスになるだろ。吐息の感じる近い距離で言いながらリヴァイがエレンの両腕をとり、自分の首に回した。
「兵長のために、以後気をつけます」
リヴァイが啄むように口づける。そのまま両の手のひらが、エレンの服の下へと滑り込んだ。
「――ん!…ア、」  
腰を撫でるようにして両手が上っていき、やわやわと身体に触れる。そうしてリヴァイが胸の頂を探し当て、それを指先でふたつ同時に捕らえた。
エレンがびくりと全身を揺らし、ああ、と身体を跳ねさせ身を捩る。我慢できずに熱い息が漏れた。好きな人に触れられてると思うだけで、エレンの身体は際限なく熱くなっていく。
回した腕で小柄な背中を抱きしめ、だいぶ乱れ始めている彼のシャツを握り締める。まだ少し流れる赤が、真っ白だったシャツを更に汚していくけれど、リヴァイはそんな事よりも目の前の熟れた身体に夢中なようだった。
「エレン…っ」
艶のある声で名前を呼ばれて、エレンの薄いシャツがすぐに託し上げられる。露わになった粒の片方へ、急くようにリヴァイが吸い付き、舌で押しつぶすように転がした。もう片方は指先で引っ掻くようにして弄る。
「…っあ…、はぁ…、んぅ」
自分から、信じられない程甘ったるい声が出た。こんなに全身が熱くなったのは初めてで、エレンはこのまま溶けてしまいそうだと思った。

「お前はやっぱり、俺にしがみついて泣いてるのがお似合いだな」
興奮してきたのか、うっとりとした表情のリヴァイがエレンの胸元から顔を見上げる。ふ、と目を細めて笑う彼と、もう瞳をあわせるだけでどうにかなってしまいそうだった。
「俺、兵長とこうしてんのがたまんないです」
あまりの気持ちよさに、吐息と一緒に思わずそう漏らす。
「予想以上だな…お前、」
それに気を良くしたリヴァイに肌を撫でられれば、その逐一に顔が火を吹きそうなくらい熱く反応した。もう募らせた気持ちを吐き出す必要などないのかもしれないけど、こんなに翻弄されてしまっては黙って居られない。

「おれ、」
「…なんだ」
「俺、兵長の事がずっと好きでした」
今はもっと、好きで好きでたまらないです。だから、嬉しい。言わなくても伝わってるのかもしれないけれど、言葉にしたかった。それを聞いたリヴァイは目を見開いたまま、こちらを見つめて硬直している。
その表情を見たエレンが嬉しそうに、はにかんだ。指先にありったけの愛しさを込めて、両手でリヴァイの頬を撫でる。
そうしていたら、ぱちん、とスイッチが切り替わるかのように、彼のその表情が一気に解けていった。

「――おい…!っ、っ、エレン…!」
真っ先に眉間に皺を刻み込んで、リヴァイが頬から耳まで真っ赤に染めていく。こんなに感情を露わにした彼は初めて見た。
「兵長、かわいいですね」
思わず言ってしまったけれど、怒られるだろうか。でも、人類最強と謳われる彼が、自分の言葉に動揺して照れているなんて、愛おしいなんてものじゃない。触れた親指でやわやわと頬を撫でる。
「……役立たずの方が可愛いと言っているだろう」
チッと舌打ちが聞こえて、キスが降ってきた。もう何回、口付けたのだろうか、重ねる度に甘くなっていくのが嬉しい。
「今はじめて聞きましたよ」
彼も同じように想いを募らせてきたのだろう。

自分に向けられてる暖かい愛情が愛おしくて、
胸がきゅっとなって、また涙がでた。



それからのエレンは、暴走したリヴァイに夜通し泣かされ続けて、嫌がるどころか恥ずかしい事に、散々喜んでしまったらしい。
初めて知る彼に普段の乱暴さは全然感じられなくて、触れる指先はずっと優しかったのを覚えてる。
結果、とても満たされて、気持ち良くなってしまって、お互いにこのまましばらく溢れるのを、止められそうに無いのだ。

…まぁ、止める理由も、無いのだけれど。

後日血まみれのシーツとお互いの服を一緒に洗濯していたら、何故か嬉々としたハンジに一日中問い詰められた。
慌てふためくエレンの姿が兵団中の話題になったのは、言うまでもない。


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