「島だァーーー!!」
麦わら帽子の船長は目指す島が1つ見えると、お気に入りの特等席から一番のりで、嬉しそうに声をあげた。
「案外早かったわね」
「ふふ、船長さんたら楽しそう」
甲板でお茶をしていたナミがログポースを確認して、その横でロビンがあらあらとはしゃぐ船長を見て笑う。
よっ、と元気良くルフィがライオン型の船首から飛び降りた。

サニー号をバタバタと船長が走り、薬草を天日干ししていたチョッパーの横をスルリと通り抜けて行く。
危ないぞルフィ!と言った所で聞いてはいない。薬草が踏まれなくて、チョッパーはホッとした。

「おぉい、トラ男!島だぞ、しま!」
はしゃぐルフィは海を眺めていたローの背中を甲板に見つけると、後ろから勢いよく飛びついた。

麦わら屋…っ、と出した声も虚しく、背中からルフィに飛び乗られたローは、ごん、と床に額を打つことになる。
「うはは、ごめんなー、トラ男ー」
ものすごく、痛い。額のついでに鼻も痛い。
ルフィはといえば、謝る癖に全く上から降りる気がないのか、楽しげに笑っている。
お前ら堂々とイチャつくんじゃねーよ!!と、釣りをしていたウソップが野次を飛ばした。これがイチャついてるように見えるのなら勘弁して頂きたい。
降りろ、麦わら屋。と言うと、悪りィ悪りィ!とルフィが立ち上がった。

偉大なる航路の気まぐれな気候にいささか疲れていた全員は、ナミの提案で食料調達も兼ね、次に見えた島で休息をとることになっていた。

「無駄遣いしたら殴るからね!」
少しの小遣いをナミから受け取り、それぞれの目的で皆、船を降りていく。

「んじゃ、トラ男、でーと行こう!」
「……」
ニカッと歯を見せて笑うルフィにそう言われ、ローは黙って頬に朱を刷く。それから、にやついた金髪の男を思い出して溜め息をついた。
突然ルフィがこんなことを言い出したのは、あのいけ好かないエロコックに、付き合ってるならまずデートをしろ、と吹き込まれたからだ。
航海中はずっと、次の島に着いたらでぇと!とルフィはローにしつこく約束していたのだ。

もちろん嬉しいけれど、絶対にデートが何かを解ってないであろうルフィの目の輝きを見てると、先が思いやられた。
サンジにデートは楽しい事と教えられ、おおかた美味いもの食べ放題、くらいに行き着いているのだろう。
ちなみに付き合う、と言ってもまだ軽いキスくらいしていない。
行くか、と歩き出せば、ルフィがおう!とついてくる。
ローは、ニコニコしているルフィに怒るのは苦手だった。可愛いからいいか、とも思っていたけれど。

「すっげーーー!!」
割と大きな街だったので、飲食店は充実していて助かる。2人は一番賑わってそうな酒場へ入る事にした。

一通り食い倒して、少し飲んだ。ほろ酔いのルフィを引き連れ代金を支払う。あの航海士はルフィの食いっぷりを良く知っていて、少し多めに持たせてるようだった。
少々意外だったので、ルフィに聞くと、さすがナミだなー!と感心していた。お腹もいっぱいでご機嫌らしい。
嬉しそうなルフィを見ていると、本当にこの船長は一味から愛されてるのだな、とローはいつも実感する。

そうこうしてるうちに日が暮れている。デートらしいことは別段していない。今日は皆、好きに一泊しても良いと言われていた。
なのに、これではルフィがこのままサニー号に戻ると言い出し兼ねない。
それではなんとなく悔しいので、少しくらい暗がりに連れ込んでも罰は当たらないハズだ。と、ローが歩きながら悶々と不埒な思いを巡らせている時だった。

「トラ男」
横をご機嫌で歩いてるルフィに呼び止められた。
何事か、また食いたい物でも見つけたのかと、無駄遣いしたら殴ると言った航海士の姿を思い出しながら振り返る。
「どうした」
が、そんな間の抜けた予想は外れだったようだ。

目を合わせたルフィは、へへ、と照れたように笑い、ローの左手に自分の指先を絡ませてきた。
おまけに腕に頭を擦り付けるというオプション付きで。思ってもみなかった展開に、ローの方が心臓が跳ね上がる程に驚いてしまう。
「お、おい、麦わら屋…」
ついでに動揺して、ヘンな声が出た。
「でぇとは手をつなぐって、サンジが言ってた」
お酒のせいか、耳や頬がほんのり赤くなった顔で見つめられる。
「トラ男、なんか、良いニオイすんな」
鼻をすん、と鳴らしてルフィが笑った。
「――ばっ…か!」
そんなにくっつかれて、そんなにとびっきりの笑顔を向けられたら、まずい。一気にローの頬が熱くなる。
一体どこまで吹き込んだんだ、あのエロコックは!普段のルフィの子供っぽさから、このギャップは凄まじい破壊力である。
ああ。ヤバイ展開だ、これは。
ローがルフィの為だけに持ち合わせているほんの少しの理性が、崩れていく。

幸いここは、この時間だと人通りが余り無いようだった。
彼とて立派な男なのだ、ずっとこんな風には耐えていられない。キスくらいはしてもいいだろうか。
最早腕どころかほぼ抱きついて甘えてる恋人の顎を持ち上げて、
「キスさせろ、麦わら屋」
そう宣言したものの、ローは返事も待ちきれずにルフィの唇へと噛みついた。

ローの余りにも急な口付けに、ん、う、とルフィから甘い声が漏れる。
一度口づけてはもう、路上だとか、苦しそうなルフィだとか、気遣う余裕が無くなって、ローはこの時初めてルフィの開いた薄い唇に、強引に舌をねじ込んだ。
「――っ!」
ルフィにとっては全く未知の、熱い感覚が口内を訪れる。瞳が少し見開かれ、身体が勝手にビクッと跳ねた。
ローが舌先で丁寧に中をまさぐり、怯えたように逃げるルフィの舌を、引きずり出すように吸い尽くす。顔を赤くして、睫毛を濡らして、ふ、ふ、と懸命に息を逃がしている。ぎゅっと目をつぶる姿がいじらしい。

初めてなので、このくらい。舌を解放してやると、つ、と唾液が透明な糸を引いた。
ぷは、と呼吸を整えたルフィが、真っ赤な顔で「と、と、とらお!今のはなんだ!?」と聞いてくる。慌てっぷりが可愛い。
そうだな、デートの時のキスだ。と答えておいた。

ルフィが数秒固まって、でーとってすごかったんだな。と言うので、そのルフィらしい答えが可笑しくて、ローは静かに笑う。
「おれ以外とはデートもキスもするんじゃねェぞ。麦わら屋」
おう!しねェ!とルフィが元気よく返事をしたので、また指を絡ませて、今度はしっかりと握った。
そのまま、じゃ、行くか。とルフィを引っ張って、ローはサニー号とは反対の方角へ歩き出す。

「どこいくんだ?トラ男ー?」
まるで、冒険でも待ってるのか?と言わんばかりにキラキラした目をルフィは向ける。
まだデートは終わっちゃいねェよ。と、ニヤリと笑って言えば、ルフィの大きな瞳が嬉しそうに瞬いた。

繋いだ手を引き寄せ、耳元で囁く。
さっきより凄い“デート”の続き、最後までしたいだろ?と、意地悪そうにローが聞いた。
ルフィはすぐに頬を真っ赤に染めて、いや、あの、と慌てだす。

「トラ男って、時々兄ちゃんみたいになるな…」
おでこまで赤くしたルフィが俯いて、困ったようにぽつりと呟いた。
「…お前の兄貴に似てるのか?」
いや!エースと似てるって訳じゃねぇぞ!ルフィが慌てて訂正する。
今、少し嫉妬したのが伝わったのか。普段は鈍い癖に、ちゃんと恋人を見抜いてる。らしい。

なんか、おれが弱くなっても、そばで守ってくれそうな、そんな感じ。ルフィはへらりと笑って言った。次に、まぁ、おれが海賊王になるんだけどな!とも続ける。
そうか、とローが笑って答えれば、ルフィは繋いだ手のひらをぎゅっと握り返して、おれ、やっぱトラ男が好きだ!とためらう事無く言い放つ。

どこまでも真っ直ぐな愛情を注いでくれようとしている彼がとても愛しい。
ちゅ。と唇を啄んで、奇遇だな、おれも好きなんだ、お前が。と伝えると、顔中に朱を載せて、その場で麦わら帽子の船長はガチガチに固まってしまった。
これから一晩かけるつもりの船長会議はどうなることやら。宿に着くまでが、楽しみで仕方がなかった。


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